東京地方裁判所 平成3年(ケ)2398号 決定 1991年12月09日
当事者 別紙当事者目録のとおり
主文
一 債権者の増価競売の申立てを却下する。
二 債権者の予備的申立てにより、別紙の担保権・被担保債権・請求債権目録2の債権の弁済に充てるため、同目録の1記載の抵当権に基づき、別紙物件記載の不動産について、担保権の実行としての競売手続を開始し、債権者のためにこれを差し押える。
理由
一債権者の申立て
本件は、共有持分の第三取得者に対して増価競売を求める事件である。
本件の事実関係は、次のとおりである。
(1) 別紙物件目録記載の建物(本件建物という。)は、堤光男、堤妙子、堤亘正及び堤久和がそれぞれ持分四分の一を有する共有不動産であった。
(2) 上記共有者四名は、本件建物について、昭和五八年一月五日台東信用組合を根抵当権者として(後に根抵当権者は朝日信用金庫に変更された。)、根抵当権を設定した。
(3) 上記の共有者のうち堤亘正は、その共有持分(四分の一)について、昭和五八年一一月二二日別紙担保権・被担保債権・請求債権目録一の根抵当権を設定した。
(4) さらに上記共有者四名は、本件建物について、昭和六一年一月二七日台東信用組合を根抵当権者として(後に根抵当権者は朝日信用金庫に変更された。)、根抵当権を設定した。
(5) そして、上記の共有者のうちの堤亘正及び堤久和は、それぞれの共有持分(各四分の一)について、平成元年一月三〇日朝日信用金庫を根抵当権者として、根抵当権を設定した。
(6) 上記の共有者のうちの堤亘正及び堤久和は、それぞれの共有持分(各四分の一)を、平成三年三月一三日株式会社コスモジャパンに譲渡担保により移転し、その旨登記された。
(7) 株式会社コスモジャパンは、債権者からの抵当権実行の通知に対して、平成三年一〇月二一日上記堤亘正から取得した持分について九〇〇万円で滌除する旨債権者に通知した。
(8) 債権者は、平成三年一一月一五日当裁判所に、株式会社コスモジャパンが堤亘正から取得した持分(別紙物件目録記載の持分)について増価競売を申立て、増価競売の申立てが却下されるときは、通常の競売を開始するよう求めた。
二当裁判所の判断
(1) 共有持分に関する滌除の可否
共有持分権を取得した者は、その持分のみに抵当権が設定された場合でない限り、その持分のみの滌除を請求することはできず、その請求は、無効である(その理由の詳細は、東京地裁平成二・九・一決定金融法務事情一二七五号六七頁参照)。
そして、他の持分権について移転登記がない場合(第三取得者がいない場合)は、その持分権については、滌除ができない。
したがって、持分の移転登記がある場合でも、他の持分について移転登記がない場合は、不動産全部の滌除ができないこととなる。
そして、滌除の通知は、登記された全ての抵当権者に対してしなければ、その効力を生じない。
したがって、一部の抵当権が共有持分のみを対象として設定されていても、他の抵当権の対象がその持分に限定されていないときは、共有持分権を取得した者は、その持分のみの滌除を請求することはできないばかりでなく、他の持分について移転登記がない場合には、他の共有者(抵当権設定者)と共同して不動産全部の滌除をすることもできないものである。
(2) 結論
前記一記載の事実関係にみるとおり、一(3)記載の根抵当権は、堤亘正の共有持分(4分の1)についてのみ設定されているが、一(2)、(4)及び(5)記載の根抵当権は、共有持分のみを対象として設定されたものではない。そして、堤亘正及び堤久和の持分については株式会社コスモジャパンへの所有権移転登記がなされているが、堤光男及び堤妙子の持分については所有権移転登記はなされていない。
そうすると、株式会社コスモジャパンは、取得した持分のみについてはもちろん、他の共有者(抵当権設定者)と共同して不動産全部についても、滌除することはできないものであり、株式会社コスモジャパンがした前記一(7)の滌除の通知は、無効であるといわねばならない。
そこで、債権者の増価競売の申立てを却下することとし、予備的に申立てのある通常競売を開始することとする。
(裁判官淺生重機)
別紙当事者目録
債権者 株式会社東京プロダクツ
代表者代表取締役 茂呂金治
債権者代理人弁護士 海老原照男
債務者 ショウワプラ株式会社
代表者代表取締役 堤亘正
所有者 株式会社コスモジャパン
代表者代表取締役 加賀谷亮悦
別紙担保権・被担保債権・請求債権目録
一、担保権
(1) 昭和五八年一一月二二日設定の根抵当権
極度額五〇〇万円
債権の範囲 売買取引、金銭消費貸借取引、保証取引、手形債権、小切手債権
(2) 登記
東京法務局墨田出張所
昭和五八年一一月二四日受付第五四二四四号
二、被担保債権及び請求債権
(1) 元金一七五万四〇〇〇円
但し、債権者が債務者に対し、昭和五八年度に継続的に売却したプラスチックフィルムの売掛金につき、下記のとおり債務弁済契約をした売掛金残金請求権
記
債権額 金一八五万四〇〇〇円
支払方法 昭和五九年一二月二八日限り金四〇万円
〃六〇年六月三〇日限り金三五万円
〃同年一二月二八日限り金三五万円
〃六〇年六月三〇日限り金三五万円
〃同年一二月二八日限り金四〇万円四〇〇〇円
上記分割金の支払いを一回でも怠ったときは、当然に期限の利益を失う。
債務者は、上記分割金の第一回支払分の支払いを遅延したので、昭和五九年一二月二八日の経過をもって期限の利益を喪失した。平成元年一二月二一日までに債務者は元金一〇万円を弁済した。
(2) 損害金
上記元金に対する平成元年一二月二一日から完済まで。年六パーセントの割合による損害金
別紙物件目録
所在 東京都墨田区千歳二丁目一二番地八
家屋番号 一二番八の一
種類 共同住宅、車庫、事務所、作業所
構造 木造及び軽量鉄骨亜鉛メッキ鋼板葺三階建
床面積 一階 158.25平方メートル
二階 142.14平方メートル
三階 20.65平方メートル
上記建物のうち、持分四分の一